記事一覧へ戻る

1. 考えられない悩み

会社の方向性が決められないときは? 「どちらが伸びるか」の前に、何を優先するかを考える

RBTDESIGN

2026/5/2 03:00

「今の事業を深めるのか、別の分野に出るのか。ずっと決められないんです」

Y社長の会社は、創業から100年を超える包装資材の卸です。

段ボール、袋、トレー、衛生用品。地域の食品会社や小売店に、日々必要な資材を届けてきました。

取引は堅実に続いています。ただ、市場は成熟し、価格競争も厳しくなっています。このままの延長で、次の10年も成長できるとは思えません。

次の柱をつくりたい。そのための案も調べている。それでも、進む方向が決まりませんでした。

こうしたとき、足りないのは新しい案や情報だけとは限りません。

選択肢を比べる前に、会社として何を優先するかを決める必要がある場合があります。

調べるほど、どちらにも理由が見つかる

Y社長は、それぞれの方向について、すでに調べていました。

包装資材の分野を深めれば、今の取引先や経験を生かせます。ただ、大きく伸びる余地がどこにあるかは、慎重に見極める必要があります。

別の分野に出れば、新しい可能性があります。一方で、知識も顧客も、これから増やしていかなければなりません。

「どっちも、間違ってはいないと思うんです」

どちらにもよい点があり、気になる点もあります。比較表をつくっても、それだけでは選べません。

たとえば、成長の大きさを重く見るのか。今の人員で始めやすいことを重く見るのか。それによって、同じ案でも評価は変わります。

何を重く見るかが決まっていなければ、情報が増えても、決め手は増えないことがあります。

「10年後も残したいもの」は何か

私は、事業の案から少し離れて、Y社長に尋ねました。

「10年後、これを守れていたらよかったと思えるものは何ですか」

Y社長が挙げたのは、今の取引先との関係、社員の仕事、地域で頼られる立場、そして会社に利益が残ることでした。

どれも大切です。ただ、いつもすべてを満たせるとは限りません。

今の取引先との関係を生かしたいなら、そのお客様が抱える別の困りごとから、事業を広げる方法が考えられます。

社員の経験を生かしたいなら、今いる人たちが力を発揮できる分野かどうかが大切になります。

利益を増やすことを急ぐなら、必要な投資や、利益が出るまでの期間も重く見なければなりません。

「どの事業がよいか」という問いの前に、「今回の挑戦で、何を実現したいか」という問いがありました。

会社の歴史は、判断の手がかりになる

話を聞くと、Y社長の会社は、創業当時には今とまったく違う商品を扱っていたそうです。

時代に合わせて商品を変え、現在の包装資材の事業になっていました。

100年以上続いているのは、同じ商品を売り続けてきたからではありません。

では、商品を変えながら、何を大切にしてきたのでしょうか。

地域のお客様の困りごとに応えることなのか。必要なものを届け、商売を支えることなのか。

ここが見えてくると、「今の業種に残るか、別の業種に出るか」という分け方も、少し変わります。

扱う商品が変わっても、これまでのお客様を支える事業はあるかもしれません。反対に、同じ包装資材でも、今までとは違う顧客や体制が必要になる事業もあります。

業種が同じかどうかだけでは、自社に合う方向は判断できないのです。

もちろん、歴史から読み取ったことが、そのまま今後の方針になるわけではありません。これまで大切にしてきたことを、これからも大切にしたいか。そこは、改めて選ぶ必要があります。

守る条件と、優先するものを分ける

会社として何を優先するかを考えると、「ほかの大切なものを捨てることになるのでは」と感じるかもしれません。

そこで、まずはふたつに分けてみます。

守る条件は何か。条件を満たした案の中で、何を優先するか。

たとえば、既存のお客様への対応ができなくなるほど、人手を新事業に移さない。これを、守る条件にすることはできます。

その条件を満たす案の中で、今の顧客との関係を生かしやすいものを優先するのか、将来の利益が大きいものを優先するのかを考えます。

こうすると、「取引先も、社員も、利益も、全部大切」で止まらずに、一歩具体的になります。

また、既存のお客様を大切にすることは、新しいお客様向けの事業をすべて外すことではありません。今の取引を支え続けられる体制があるなら、新しい分野への挑戦と両立できる可能性もあります。

優先順位は、選択肢を機械的に減らすためではなく、何を条件に、どの案を選ぶかを説明するために使います。

順番がつかないときは、過去の判断を振り返る

それでも、何を優先するかは簡単には決まらないものです。

そのときは、実際に迷った場面を思い出してみます。

「取引先との関係と利益がぶつかったことはありますか。そのとき、どう判断しましたか」

Y社長は、長く付き合っている取引先の話をしてくれました。

利益だけを見れば、条件を見直すことも考えられる取引でした。それでも、関係を続けることを選んだそうです。

ここで知りたいのは、関係と利益のどちらが正しいかではありません。

なぜ、そのときは続けることを選んだのか。今、同じ状況でも同じ判断をするのか。

理由を聞いていくと、会社が大切にしてきたことが具体的になります。

反対に、「当時は続けたけれど、今後は同じ条件では難しい」と気づくこともあります。

過去の判断は、これからの方針を考える材料です。そのまま従う必要はありません。

この日に決まったのは、案を比べ直す基準だった

打ち合わせの中で、新しい事業の方向が決まったわけではありません。

決まったのは、案を選ぶ前に整理することでした。

次の10年で実現したいことは何か。そのためにも守りたい条件は何か。複数の案が条件を満たすなら、何を優先するのか。

それを言葉にしてから、既存事業を深める案と、別の分野に出る案を見直すことにしました。

「どっちが伸びるか、ばかり考えていました」

Y社長は、そう話していました。

市場が伸びるかどうかは大切です。ただ、成長する市場なら、どこでも自社に合うとは限りません。

会社が目指すことと、事業として成り立つこと。その両方を見て選ぶ必要があります。

あなたの会社は、何を理由に選びますか

方向性が決められないときは、候補の比較を少し止めて、次の3つを書いてみてください。

  • 今回、会社として実現したいこと

  • 新しいことを始めても、守りたい条件

  • 条件を満たす案の中で、優先したいこと

これらを書いても、すぐに答えが出るとは限りません。

ただ、何のために調べるのか、どの数字や条件を比べるのかは、明確になります。

「こちらのほうが伸びそうだから」に加えて、「私たちの会社は、これを大切にするから」と説明できるか。

その言葉を持つことが、方向性を選ぶための手がかりになります。


→ 自社では、方向を選ぶ手前のどこで判断が止まっているのかを確かめる(準備中)

→ RBTDESIGNが、決めきれない方向性を社長とどう考えるのかを知る(公式サイト)