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4. 決められない悩み

経営判断の基準が見つからない? まず「何の判断か」を分けてみる

RBTDESIGN

2026/3/2 03:00

自分なりの判断基準をもちたい。そう考え、理念や価値観を言葉にしている経営者は少なくありません。

それでも、依頼を受けるか、料金をどうするか、誰と組むかといった場面では迷うことがあります。

写真スタジオを営むE社長も、その一人でした。

「写真のことなら、いくらでも話せるんです。でも、経営のこととなると、やっぱりピンとこない」

この言葉には、大切な違いが隠れていました。

経営の判断基準は、一つの立派な言葉として探しても、見つからないことがあります。まず「何の判断のための基準か」を分ける。そのうえで、過去に実際に選んできたことから理由を拾っていくことが大切です。

理念のような大きな言葉と、目の前の個別の判断。そのあいだに、実際に使える優先の基準が必要なのかもしれません。

写真のことなら、迷わず答えられる

E社長は、家族写真やプロフィール写真を扱う写真スタジオを営んでいます。

自分が何を大切にしているのかを、長い時間をかけて言葉にしてきました。

撮影の前には、安心して気持ちを出せる場をつくる。家族や仕事、大切な人のことを思い出してもらい、そこで生まれた反応を撮る。

撮れた写真を見直すときの基準も、はっきりしていました。

「気持ちのまま、写っているかどうか」です。

ところが、話が経営に移ると、同じようには言葉になりません。

依頼を受けるか。料金をどうするか。企業向けの仕事を増やすか。誰と組むか。

判断のたびに迷い、決めたあとも「これでよかったのか」と感じる。だからこそ、自分なりの判断基準をもちたいと考えていました。

理念だけでは、目の前の判断は決まらない

判断基準がほしいと思ったとき、理念やミッションを言葉にしたり、自分の価値観を書き出したりすることがあります。

どれも意味のあることです。会社がどこへ向かうのかを、周りと共有しやすくなります。

ただ、理念はたいてい抽象的です。

たとえば「お客様の笑顔のために」という言葉があっても、今回の値上げをするかどうかまでは決まりません。

「誠実な仕事を」と掲げていても、この依頼を受けるのか、断るのかを直接決められるわけではありません。

大きな言葉は、方向を示してくれます。けれど、目の前の判断をそのまま切り分けてくれるわけではありません。

感覚で決めること自体が悪いわけではありません。経験を積んだ経営者の感覚には、言葉になっていない知恵があります。

ただ、なぜそう決めたのかが残らなければ、次に似た判断が来たとき、また迷います。社員へ任せるときにも、何を基準にすればよいかを伝えにくくなります。

ひとつの言葉に、役割の違う基準が混ざっていた

E社長と約90ページもの自己対話資料を読み直すなかで、見えてきたことがあります。

「判断基準」という一つの言葉の中に、役割の違うものが混ざっていました。

  • 撮影の時間を、どんな状態ならよしとするか

  • できあがった写真を、どう評価するか

  • 案件、料金、組む相手を、何で選ぶか

最初の二つは、E社長が深く考えてきたことでした。記録を読み返すほど、撮影と写真の基準ははっきりしていきます。

一方で、三つ目の経営に関わる基準は、同じ方法では見つかりませんでした。

探す場所が違ったのです。

撮影と写真の基準は、いったん現時点の答えとして置く。そして経営の判断基準は、別の方法で探すことにしました。

判断に迷うのは、判断基準がないからとは限りません。役割の違う基準が混ざり、どの判断に何を使えばよいのかが見えなくなっていることもあります。

理念と個別の判断のあいだに、もう一段ある

では、経営の判断基準は、どのような形にすると使いやすいのでしょうか。

私は、理念と個別の判断のあいだに、もう一段必要だと考えています。判断の種類ごとに、「何を優先するか」を決めた基準です。

たとえば、次のように考えられます。

  • 依頼を受けるか:自分たちが大切にする撮影の時間をつくれるか

  • 料金をどうするか:事業全体で守る利益のラインに合うか

  • 誰と組むか:撮影の前提を一緒に守れる相手か

E社長は実際に、1時間あたりの粗利について、事業全体で守るラインを決めていました。

これは、一件ごとに機械的に受けるか断るかを決めるための線ではありません。事業全体で守る基準です。例外として受けるなら、なぜそうするのかを言葉にしておきます。

判断基準は、判断を縛るためのものではありません。判断した理由を残し、次の判断にも使えるようにするものです。

過去の選択から、理由を拾う

経営の判断基準を探すために、E社長と私が取った方法は、とても地道なものでした。

過去に実際に選んできたこと、仕事、商品、お客様との関係などを40ほど並べました。

そして一つずつ、「そのとき、なぜそちらを選んだのか」をたどりました。空欄でも、「なんとなく」でもかまいません。

判断基準を正面から問われると、人はきれいな言葉を探しはじめます。けれど、実際に使ってきた理由は、過去の選択の中に残っています。

  1. 最近の判断を、5つから10個ほど書き出す

  2. それぞれ、当時なぜそう決めたのかを、そのときの言葉で書く

  3. 理由を横に並べ、何度も出てくるものを探す

  4. 矛盾する理由も、消さずに残しておく

ただし、人は過去の選択に、あとから意味をつけ直してしまうことがあります。ひとりで振り返ると、「本当はこうだったはず」という理想の私に寄っていきやすいものです。

誰かと一緒に読み直すと、そうしたずれにも気づきやすくなります。

E社長が、いま確かめていること

E社長の経営に関わる判断基準は、まだ言葉になりきっていません。

いまは40の選択を並べ、そこに共通する理由を探しているところです。

もう一つ、並行して考えている問いがあります。

「自分たちが大切にしていることを、誰が、なぜ必要としているのか」

判断基準は、経営者の内側だけで決まるものではないのかもしれません。お客様が撮影の前に何を求めているのか。そこまで見えてきたとき、依頼の受け方や料金の決め方も、少しずつつながっていきます。

一つ、変わったことがあります。

「私の判断基準は何か」を一つの言葉で探すことをやめたことです。どの判断のための基準なのかを分け、一つずつ確かめる。そのほうが、次の判断へ進みやすくなります。

あなたの次の判断には、どの基準を使いますか

経営判断の基準が見つからないのは、考えが浅いからではないのかもしれません。

いま迷っている判断を、一つ思い浮かべてみてください。

それは、何を選ぶ判断でしょうか。依頼を受けるか。値段を決めるか。人を採るか。誰と組むか。

その判断に、いま使おうとしているのはどの基準でしょうか。理念のような大きな言葉でしょうか。それとも、別の判断のためにつくった基準でしょうか。

自社では、この判断にどの基準を使うのか。そこが言葉になれば、迷いが残っていても、決めた理由は残ります。

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