6. 感情的な悩み
経営者が一人で考える限界は? 「何を考えるか」が変わらないと、答えも変わりにくい
RBTDESIGN
事業のことを、毎日のように考えている。
本を読み、人の話を聞き、数字も確認している。それでも、いつも同じところに戻ってしまう。
そんなときは、考える量を増やす前に、何を当たり前として考えているかを確かめてみます。
「今の商品を、もっと売る必要がある」
「足りないのは、営業や発信の力だ」
そう考える理由はあるはずです。ただ、その前提が今も合っているかによって、必要な取り組みは変わります。
布製品を扱うW社長の相談から、考えてみます。
売上が減っている。だから、売り方を変えたい
W社長の会社には、染めや縫製の技術がありました。
手拭い、前掛け、半纏、作業服。社内にはデザイナーもいて、企画から納品までをまとめて対応できます。
一方で、売上のおよそ四割を占めていたノベルティ用のタオルは、年々注文が減っていました。
取引先の小さな商店が閉店する。値上がりで注文数が減る。公共の仕事では価格競争になり、利益が残りにくい。
これまでと同じ取引先に、同じように売っていくだけでは難しくなっていました。
W社長が考えていたのは、新しいお客様を見つけることです。自社の強みを整理し、法人向けの売り方を考えたい。それが相談の入り口でした。
「売り方」の前に、確かめたいことがあった
話を聞きながら、私は確認しました。
「これから、どんなお客様に、何を選んでもらいたいと考えていますか」
タオルを必要とする新しいお客様を探すのか。
前掛けや半纏など、ほかの布製品に力を入れるのか。
同じ会社の取り組みでも、選ぶ方向によって、調べる相手も、提案する内容も変わります。
タオルの注文を増やすなら、その用途や購入先を探します。
前掛けや半纏に力を入れるなら、長く使う人が何を重視するか、自社の染めや縫製がどの場面で役立つかを確かめます。
どちらを重視するかがあいまいなままでは、営業先や発信内容も選びにくくなります。
W社長に足りなかったのは、売り方の案だけではなかったのかもしれません。
売り方を決めるために、先に選びたい市場と、そこで届ける価値を整理する必要がありました。
長く続けてきた仕事ほど、考え直しにくい
会社の中にいると、これまでの仕事を出発点に考えるのは自然なことです。
タオルが売上を支えてきたなら、タオルの注文を増やす方法を考えます。そのための経験も、取引先も、設備もあります。
それ自体が間違いというわけではありません。
ただ、市場が変わっているときには、その考え方だけでは選択肢が狭くなることがあります。
「タオルをどう売るか」と考えるのと、「染めや縫製、企画の力を、誰に役立てるか」と考えるのでは、見える事業の範囲が違います。
後者なら、タオルも候補に残しながら、ほかの製品やお客様も比べられます。
これまで会社を支えてきた考え方が、これからの選択肢を狭めることもある。
一人で考えるときに難しいのは、慣れた考え方そのものを、検討する対象に戻すことです。
外の視点で、考える問いが変わる
相談相手がいると、意見や知識を得られます。それに加えて、考えている問いを見直せることにも意味があります。
たとえば、「タオルをもっと売るには」と相談すれば、営業先や販売方法の案が出てきます。
そこで誰かが、「今後もタオルを中心にする方針は決まっていますか」と尋ねると、別の話が始まります。
タオルに力を入れる理由は何か。
ほかの布製品と比べたときに、どこに可能性があるのか。
今までの売上構成を、これからも維持したいのか。
答えるうちに、決めていたつもりのことが、実は十分に比べていなかったとわかる場合があります。
外の人が正しい答えを持っているとは限りません。現場を知らないからこそ、見当違いの質問をすることもあります。
それでも、社内では改めて聞かれない問いが、考え直すきっかけになることがあります。
W社長の会社では、何を調べるかが変わった
W社長との対話では、染めや縫製の技術を、どんな使われ方に生かせるかを考えました。
たとえば、長く使う前掛けや半纏では、丈夫さや使い続けたときの風合いが、選ぶ理由になるかもしれません。
祭りやイベントで使う品なら、地域や団体の希望をくみ取り、デザインから仕上げまで対応できることが評価されるかもしれません。
一方、価格で比較されやすい分野では、自社の技術を十分な対価につなげにくい可能性があります。
どれも、この時点では仮説です。市場の大きさや、お客様が実際に評価すること、自社に残る利益を確かめる必要があります。
そこで、まずは過去の売上や受注内容を整理し、お客様が何を理由に依頼したのかを聞くことにしました。
その材料をもとに市場の候補を比べ、力を入れる方向を選ぶ。そのうえで、具体的な売り方を考えていきます。
相談は、販売方法の案を求めるところから、どこなら自社の力が価値になり、事業として続けられるかを確かめる話へ進みました。
自分の前提を確かめる、3つの問い
同じところを考え続けていると感じたら、今の悩みについて、次の3つを書いてみてください。
1. 今、何を変えようとしていますか
「営業先を増やしたい」「ホームページを直したい」「新商品をつくりたい」など、実際に考えている取り組みを書きます。
2. それを変えれば、よくなると考える理由は何ですか
営業先を増やすなら、「商品には需要があり、知ってもらう機会が足りない」と考えているのかもしれません。
ホームページを直すなら、「商品の価値はあるが、伝え方に問題がある」と見ているのかもしれません。
ここに、今の判断を支えている前提があります。
3. その前提は、今も確かめられていますか
最近のお客様の声や数字で確認できているでしょうか。それとも、以前の経験から、今もそうだと思っているでしょうか。
以前に正しかったことでも、状況が変われば見直しが必要になります。
前提を疑うことは、これまでの判断を否定することではありません。今の状況でも使えるかを、もう一度確かめることです。

一人で考え続ける前に、問いを誰かに見せてみる
W社長の会社では、どの市場に力を入れるかは、まだ決まっていません。
ただ、何を調べ、何を比べて決めるかは見えてきました。
考える時間が足りなかったというより、同じ問いの中で答えを探し続けていたのかもしれません。
一人で考えて進まないときは、誰かに結論を求める前に、今考えていることを話してみてください。
「私はこう考えて、この方法を検討しています。その前に、確かめたほうがよいことはありますか」
そう聞くと、方法のよしあしだけでなく、考える順番や前提についても話しやすくなります。
答えを増やすより、問いを変えることで進める場合があります。
あなたが今、当たり前としていることの中に、もう一度確かめたいことはないでしょうか。
→ RBTDESIGNが、経営者とどのように考えるのかを知る(公式サイト)