6. 感情的な悩み
新規事業の壁打ちは何のため? アイデアを磨く前に、本当に確かめる問いを見つける
RBTDESIGN
新規事業の壁打ちというと、アイデアを聞いてもらい、良いか悪いかを言ってもらう場を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それも一つの使い方です。
ただ、私が現場で見てきた壁打ちで役に立ったのは、アイデアの評価ではありませんでした。
その新規事業で、本当に確かめるべき問いは何か。
それを見つけることです。
壁打ちは、アイデアを増やす場というより、まだ確かめていない前提や、本当に決めようとしていることを見つける場として使えます。
陶器を扱う小売店のG社長との対話をもとに、お話しします。
「飲食店向けのサブスクを始めたい」
G社長の店は、陶芸作家がつくる一点ものの器を、店頭とネットで販売しています。
お客様の多くは個人です。作家の背景や器の選び方を伝えながら、長く売ってきました。
ところが、ここ数年、個人のお客様の購入が少しずつ減っていました。
一方で、小さな和食店やイタリア料理店から、「ほかの店と違う器を使いたい」という相談が届くようになっていた。
そこでG社長が考えたのが、飲食店向けに器を貸し出す、定額制のサービスでした。G社長の中では、かなり進める前提になっていたように見えました。
相談の中心は、「このサービスを、どう事業にしていくか」。
ふつうの壁打ちなら、ここから始まる
新規事業の相談を受けると、多くの場合、アイデアの中身から話が始まります。
月額はいくらにするか。何枚ずつ貸すか。割れたときはどうするか。どの店に営業するか。
どれも、いずれ必ず考えることです。
アイデアの弱いところを指摘してもらい、改善案をもらう。それも壁打ちの価値の一つです。
ただ、この進め方には前提があります。
「このアイデアで進める」ことが、すでに決まっているという前提です。
その前提が、実はまだ確かめられていないとしたら。細部をどれだけ磨いても、判断はどこかで止まります。
一つのアイデアに、3つの話が入っていた
G社長と話していくと、「飲食店向けのサブスク」という一言の中に、別々の話が入っていることが見えてきました。
ひとつは、個人向けの売上が落ちていること。
もうひとつは、仕入れた器の中に、動かない長期在庫があること。
さらには、飲食店から新しい相談が来ていること。
3つとも、実際のことで何も間違っていません。
ただ、それぞれが求めているものは違います。
売上の減少に手を打ちたいなら、個人向けの販売を立て直す道もあります。
在庫を動かしたいなら、その在庫を必要とする相手が誰なのかを確かめる必要があります。
飲食店の相談に応えたいなら、店にとって器が何を意味するのかを知る必要があります。
この3つが、「サブスク」という一つの手段にまとめられて解決しようとされていました。
手段が先に決まり、何を実現するための事業なのかが、あとから追いかけている。もしかしたら、そんな状態だったのかもしれません。
本当に確かめるべき問いは、どこにあったのか
では、G社長の新規事業で、本当に確かめるべき問いは何だったのでしょうか。
私の見立ては、こうでした。
「定額制をどう成り立たせるか」の手前に、「飲食店にとって、一点ものの器は何を変えるのか」という問いがある。
料理や店の雰囲気を、ほかの店と違うものにしたい。そう考える店主にとって、作家の器は料理の一部になりえます。
そうだとすれば、届けるものは「器を貸すこと」ではなく、「店らしさを器で表すこと」かもしれない。
その場合は、貸し出しより、販売や、料理と器を合わせる提案のほうが合う可能性もあります。
逆に、作家の物語よりも、入れ替えの手軽さや費用を重く見る店が多いなら、定額制が合う可能性もある。
どちらが正しいかは、確かめてみないと分かりません。
だからこそ、壁打ちで見つけるべきだったのは答えではなく、この「確かめる問い」でした。
私の壁打ちにも、反省がありました
この日の対話は、すべてがうまくいったわけではありません。
私は、話を手前に戻そうとするあまり、定額制の難しさを多く並べすぎました。在庫の管理、配送、破損、入れ替えの頻度。個人向けと飲食店向けを同時に回す負担。
どれも、確かめるべき条件ではあります。
けれどG社長の側から見れば、「うまくいかない理由」を次々に聞かされたように感じたかもしれません。
G社長が知りたかったのは、どう進めていけるのか、でした。
壁打ちの相手が、いつの間にかアイデアの否定役になってしまう。これは、壁打ちでよく起きる失敗です。
手前の問いに戻すことと、アイデアを否定することは、同じではありません。
成り立つ条件と、まだ分からないことを並べる。選ぶのは社長に残す。本来は、そこで止めるべきでした。
壁打ちで、確かめる問いを見つけるには
新規事業の壁打ちを、アイデアの評価ではなく、確かめる問いを見つける場として使うなら、次の3つを話してみてください。
①そのアイデアは、何を解決するために出てきたのか。
売上か、在庫か、新しい需要か。一つとは限りません。いくつ入っているかを数えるだけでも、話は変わります。
②すでに決まっていることと、決めたつもりになっていることは何か。
「定額制でいく」は、決めたことでしょうか。それとも、まだ確かめていない仮説でしょうか。
③何が分かれば、進むか止まるかを選べるのか。
飲食店は器に何を求めているのか。何店に聞けば見えてくるのか。確かめる順番が決まると、次の一歩は小さくなります。
壁打ちの相手に求めるのは、正解ではありません。自分では当たり前すぎて見えなくなっている前提を、外に出してもらうことです。
G社長の現在地
この対話の時点で、G社長の会社としての方針は、まだ決まっていませんでした。
定額制を試すのか。販売や提案から始めるのか。個人向けを立て直すのか。
私から見えていた選択肢は、いくつかありました。
ただ、それを選ぶのはG社長です。
その前に確かめることとして残ったのは、G社長自身が、この事業で何を守り、飲食店に何を届けたいのかを言葉にすること。そのうえで、選択肢を同じ条件で並べてみることでした。
アイデアは、最初のまま残っています。
変わったのは、そのアイデアの前に、確かめる問いが並んだことです。

あなたの新規事業で、本当に確かめるべき問いは何でしょうか
新規事業の壁打ちで話すのは、アイデアの良し悪しだけではありません。
そのアイデアには、いくつの目的が入っているのか。
何が決まっていて、何がまだ仮説なのか。
何が分かれば、選べるのか。
ここが見えてくると、磨くべきアイデアも、いったん置いてよいアイデアも、自然と分かれていきます。
あなたの新規事業で、本当に確かめるべき問いは何でしょうか。
→ 新規事業で本当に決めようとしていることを、一緒に見つける(準備中)
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