2. アイデアが形にならない悩み
事業アイデアがまとまらないのはなぜ? 「お客様の変化」と「自分が大切にしたいこと」が重なる場所を探す
RBTDESIGN
アイデアが出ないのではない。むしろ、出すぎて決められない。
新規事業を考えていると、そんな状態になることがあります。
候補を書き出す。人にも相談する。市場も調べる。
それでも、一つにまとまらない。
そんなときは、アイデアを増やすより先に、二つのことを確かめたほうがいいかもしれません。
お客様は、どう変わりたいのか。
そして、もうひとつは
自分は、この事業で何を大切にしたいのか。
事業の中心は、このふたつが重なるところにあります。
「全部並べておきたい」と話したM社長
M社長は、建築補修を手がける会社を経営しています。
信頼されていて仕事は途切れません。ただ、M社長はいつも現場にいて、事務所に戻ったら翌日の段取りまで、すべて自分で組んでいました。
そこで、このままでは疲弊するとして新たに導入したのが、素材の表面を守る画期的なコーティング技術です。
この技術は、いろいろなところに使えます。
コンクリートの床。トラックの荷台。木のデッキ。洗面台。和紙。ガードレール。高い技術はきっと、海外でも受け入れられると考えられます。
初めて話をうかがったときも、用途は次々に広がりました。
では、どれをやるのか?
そう聞くと、M社長はこう答えました。
「今のところは、全部並べておきたいんです」
候補がないのではありません。
多すぎて、選べないのです。
表をつくっても、決まらなかった
そこで、候補を比べるための表をつくることにしました。
市場の大きさ。
始めやすさ。
儲かるかどうか。
いくつかの項目を並べて、○・△・×をつけていきます。表はきれいに埋まりました。それでも、決まりませんでした。
評価の高い候補はあります。でも、「これをやろう」とはならない。
表を見直すと、ふたつの問題が見えてきました。
ひとつ目は「お客様に聞いていない」
まだ誰にも話を聞いていない用途にも、○や×がついていました。
経験や、想像力を働かせてつけた評価です。
そこで私は聞きました。
「まだ聞いていないなら、ここは○でも×でもなく、『?』ではないでしょうか」
すると、表の意味が変わりました。
○や×は、確かめたこと。?は、まだ分からないこと。
その用途で、本当に困っている人がいるのか。
何に困っているのか。
どうなれば助かったと感じるのか。
そこは、まだ分かっていなかったのです。つまり、お客様がどう変わりたいのかが、まだ見えていませんでした。
ふたつ目は「自分の基準ではなかった」
もうひとつは、評価項目そのものです。
表の項目は、私が例として出したものでした。M社長自身が決めたものではありません。
たとえば「仕組み化しやすいか」という項目。
M社長は、「決まった寸法で加工しやすいか」という意味で見ていました。
一方、私が考えていたのは、「社長が毎回動かなくても仕事が続いていくか」という意味でした。
同じ言葉でも、意味が違います。
つまり、表は埋まっていても、「自分は何を大切にして、この事業を選ぶのか」は、まだ決まっていなかったのです。
実は、答えは最初に出ていた
M社長が大切にしたいことは、最初の面談ですでに一度出ていました。
新しい事業を何のためにやるのか。そう聞いたとき、M社長はこう話していました。
「仕組みをつくって、ちゃんと経営者になりたいんです」
今の仕事は、自分が現場にいないと回らない。次の事業では、それを繰り返したくない。
これは、かなり大切な判断基準です。
ところが、候補を比べる表には、この考えが入っていませんでした。
一度言葉にしただけでは、判断には使えません。
「自分は何を大切にするのか」を、選ぶ基準まで落とし込む必要があります。
「できること」だけでは、事業は決まらない
新しい技術を手にすると、「これで何ができるか」を考えます。
もちろん、それは大切です。
でも、「できること」だけで考えると、候補はどんどん増えていきます。
M社長もそうでした。
床にも使える。
トラックにも使える。
木にも使える。
和紙にも使える。
できるから、候補になる。
でも、できることと、事業として選ぶことは別です。
選ぶためには、もうふたつほど必要です。
ひとつは、
お客様が、どう変わりたいのか。
もうひとつは、
自分が、この事業で何を大切にしたいのか。
このふたつが重なるところを探していきます。
お客様だけでも、自分だけでも足りない
お客様の困りごとだけを見ていると、「求められるなら何でもやる」になりやすくなります。
仕事は増えても、社長の負担まで増えてしまうかもしれません。
反対に、自分の思いだけを見ていると、「やりたいけれど、誰が必要としているのか分からない」という状態になります。
たとえば、M社長には「地元の伝統和紙を残したい」という思いがあります。
これは、M社長の側の話です。
一方で、「長持ちする和紙の商品が欲しい人がいる」のであれば、それはお客様の側の話です。
似ていますが、同じではありません。
ふたつを分けて見るからこそ、どこが重なっているのか?まだ確かめる必要があるのか?
それが見えてきます。
あの表の役割も変わった
M社長は、まだ市場をひとつに決めていません。
それでいいと考えています。
会議の終わりに、M社長はこう話しました。
「そしたら、”?”がついたところを確認すれば前に進めるって、やることが明確になりますね」
分からないことは、想像で埋めない。お客様に聞く。
そして、自分の側では、「何を大切にして、この事業を選ぶのか」を考え直す。
表の役割も変わりました。
点数の高い案を選ぶための表から、まだ分からないことを見つける表へ。
候補を全部捨てる必要もありません。
まずは、どこから確かめるかを決めればいい。
M社長の新しい事業は、今その段階にあります。

あなたのアイデアは、どこから生まれていますか
いま並んでいるアイデアを、ひとつずつ見てみてください。
それは、
お客様の「こう変わりたい」から生まれたものでしょうか。
あなたが大切にしたいことから生まれたものでしょうか。
それとも、
「自分たちには、これができる」から生まれたものでしょうか。
「できること」から始めても構いません。ただ、そこにふたつの問いを加えてみます。
お客様は、どう変わりたいのか。
自分は、この事業で何を大切にしたいのか。
お客様の側が分からなければ、聞きに行く。自分の側が分からなければ、そこを言葉にする。
両方が重なる場所は、思っているほど多くないかもしれません。
でも、その重なりが見えてくると、たくさんのアイデアの中から、次に進むものを選びやすくなります。
アイデアの手前で、事業のどこがまだ決まっていないのかを見る(準備中)