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2. アイデアが形にならない悩み

新規事業のアイデアが出ないのはなぜ? 「誰の、何を変えたいのか」から考え直す

RBTDESIGN

2026/3/17 03:00

新規事業のアイデアが、なかなか出てこない。

本を読み、他社の成功例を調べ、社内でも話し合った。それでも「これだ」と思える案が見つからない。

そんなとき、足りないのは発想力ではないかもしれません。

「誰の、どんな状態を変える事業にしたいのか」。その出発点が、まだ決まっていない可能性があります。

出発点がないまま考えると、どの方向にも進めるぶん、かえって選べなくなります。

アイデアがないのではなく、出てきたアイデアに対して、「これは違う」と判断するための基準がないのです。

「ゼロベースで考えたい」と話したL社長

L社長は、製品の製造を請け負う会社を経営しています。

長く続いてきた事業ですが、売上の大半を一社の取引先に頼っていました。材料価格が上がっても、販売価格にはなかなか反映できません。利益もほとんど残らなくなっていました。

このままでは先細りする。だから、新しい事業の柱が必要でした。

初めてお会いしたとき、L社長はこう話しました。

「既存事業にとらわれず、ゼロベースで新規事業を考えたいんです」

まったく別の分野なのに、急成長した会社の新規事業の事例を羨望の眼差しで語り、すでに試作まで進めて、温めている商品もありました。

何をやってもいい。だからこそ、何をやるのか決められない。

L社長の新規事業は、そんな状態から始まりました。

アイデアを増やしても、決められるとは限らない

アイデアを出す方法は、たくさんあります。

伸びている市場を調べる。他社の成功事例を集める。自社の技術や設備を書き出す。社員でアイデアを出し合う。

どれも役に立つ方法です。

ただし、出発点が決まっていなければ、集めた情報はすべて「ありえる案」として横に並びます。

  • 伸びている市場も魅力的に見える。

  • 他社の成功事例も良さそうに見える。

  • 自社の設備を活かせる商品も捨てがたい。

どれも間違いではないからこそ、決められません。L社長も同じでした。

急成長した会社の事例も、試作品も、今ある設備を活かす方法も、すべて「ありえる」。しかし、「なぜ、それを自分たちがやるのか」と聞かれると、答えがありませんでした。

ここで大切なのは、アイデアの数と、決めやすさは別だということです。

考える量を増やすほど選択肢が増え、かえって動けなくなることもあります。

「アイデアが出ない」という感覚は、本当に案がゼロのときだけではありません。

案はあるのに、選べないときにも起こります。

「何でもいい」の中に、条件が隠れている

RBTDESIGNでは、アイデアを探す前に、その手前を見ます。

この事業で、誰のどんな困りごとを変えたいのか。この会社は、何を大切にして次の事業を選ぶのか。

ここが決まっていなければ、アイデアを比べる物差しがありません。

そして、「何でもいい」「ゼロベースで考えたい」という言葉が、本当に条件がないことを意味するとは限りません。

まだ言葉になっていない条件が、本人の中に残っていることがあります。

長く一つの事業を続けてきた会社ほど、これまでの経験の中に「もうこれはやりたくない」「次はこうありたい」という感覚が積み重なっています。

そこで私は、L社長に「どんな事業をやりたいですか」と聞くのを、いったんやめました。

代わりに、反対から聞いてみました。

「逆に、これはやりたくない、というものはありますか」

出てきたのは「やりたくないこと」だった

少し間があって、L社長から出てきたのは、

「今の業界では、もうやりたくない」

という言葉でした。理由を聞くと、今の取引先との関係や、業界の慣習から離れたいという思いが見えてきました。

打ち合わせの終わりには、「本音の深いところまで掘り下げてもらえた気がする」という感想もありました。

つまり、「ゼロベース」は、本当のゼロではなかったのです。

少なくとも、

「今と同じ場所ではやりたくない」

という条件はありました。

ただし、ここには注意も必要です。

「今の業界から離れたい」という気持ちは、大切な手がかりです。

一方で、それだけを基準にすると、「今と違えば何でもいい」という選び方になってしまいます。

それでは、また候補が広がります。

だから、過去から離れたいという気持ちと、これから何を選ぶかという判断は、分けて考える必要があります。

「何から離れたいか」がわかったら、次は「どこへ向かいたいか」を考える。

ここから、新規事業の条件が少しずつ見えてきます。

アイデアの前に確かめたい3つのこと

L社長との対話から、新規事業のアイデアが出ないときに、先に確かめたいことを三つに整理しました。

1. やらないことは何か

「何をやりたいですか」と聞かれても、すぐには答えられないことがあります。

そんなときは、「これはやりたくない」から考えてみます。

  • 業界なのか。

  • 取引の仕方なのか。

  • 価格競争なのか。

  • 大量生産なのか。

  • 今までと同じ働き方なのか。

一つでも外せるものが見つかれば、探す範囲が変わります。「やりたいこと」だけでなく、「やらないこと」も立派な判断基準です。

2. 誰の、どんな状態を変えたいか

事業は、誰かの状態を変えることで成り立っています。

  • 困っている人が、困らなくなる。

  • できなかったことが、できるようになる。

  • 面倒だったことが、楽になる。

  • 不安だった状態が、安心に変わる。

相手と変化が見えてくると、市場や技術の見方も変わります。

たとえば、L社長が試作していた商品について、

「この商品は売れるだろうか」

だけを考えると、答えは市場調査しだいです。調べれば調べるほど、「売れそうな理由」と「難しそうな理由」の両方が増えていきます。

しかし、

「これは、誰のどんな困りごとを変えるための商品なのか」

という問いが先にあれば、判断しやすくなります。

その変化に役立つなら、検討する。役立たないなら、今回は違う。

商品から事業を考えるのではなく、起こしたい変化から商品を見るようになります。

3. 儲かること以外に、何を大切にしたいか

事業には利益が絶対に必要です。

ただ、利益だけで新規事業を選ぶと、候補はいくらでも出てきます。

L社長には、「社員が活躍できる事業にしたい」という思いもありました。

これも重要な条件です。

  • どんな会社でありたいのか。

  • 社員にどんな仕事をしてほしいのか。

  • 地域とどう関わりたいのか。

  • どんな商売の仕方なら、自分たちは納得できるのか。

こうしたことも、新しい事業を選ぶ基準になります。

3つとも、すぐに答えを出す必要はありません。

むしろ、

「ここは、まだ決まっていない」

とわかるだけでも前進です。

次に何を考えればいいのかが、はっきりするからです。

L社長の新規事業は、まだ決まっていない

L社長の新規事業は、まだ始まったばかりです。

試作した商品も、現在の設備を活かす方法も、まったく違う分野への挑戦も、まだ候補として残っています。

  • 一社に依存している売上構造。

  • 利益の少なさ。

  • 人や設備。

  • 経営陣が使える時間。

こうした現実的な制約のほうが、大きな問題である可能性もあります。

「誰の何を変えるのか」が決まれば、すべてが解決するわけではありませんが、それでも、一つ変わったことがあります。

「何でもいい」という状態から、「何でもいいわけではない」ということが見え始めました。

これは、大きな前進です。

新規事業を考えるうえで、候補を増やすことよりも先に必要なのは、何を選び、何を選ばないのかを決める基準だからです。

あなたの新規事業は、誰の何を変えますか

アイデアが出ないと、「もっと考えなければ」と思いがちです。

もっと調べる。

もっと事例を見る。

もっと案を出す。

でも、必要なのはアイデアの追加ではなく、考え始める場所を変えることかもしれません。

一度、紙に書いてみてください。

この新しい事業で、誰の、どんな状態を変えたいのか。

そして、

これだけは、やりたくないことは何か。

書けないところがあれば、そこが今、まだ決まっていないところです。

そこが見えてくると、探すべきアイデアも変わってきます。

新規事業は、「面白そうなアイデア」を見つけることから始まるとは限りません。

自分たちは、何を変えるために次の事業をやるのか。

その問いが、たくさんある可能性の中から、一つを選ぶための最初の基準になります。


アイデアの手前で、事業のどこがまだ決まっていないのかを見る(準備中)

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