3. 構造が見えない悩み
コンセプトが決まらないときは? 言葉を考える前に、お客様に届けたい変化を決める
RBTDESIGN
「自然の恵み」「地域の素材」「丁寧なものづくり」。
会議では、商品の特徴を表す言葉がいくつも出ていました。
どれも間違ってはいません。けれど、化粧品のコンセプトとして並べてみると、決め手がありません。
「うちらしい気はするんです。でも、お客様に選んでもらえるのかと言われると……」
T社長は、候補の言葉を見ながら考え込んでいました。
コンセプトが決まらないとき、もっとよい表現を探したくなります。
ただ、その前に確かめたいことがあります。
この商品は、誰の、どんな願いに応えるものなのか。
ここがあいまいなままでは、候補を増やしても選びにくいのです。
化粧品を始める理由は、はっきりしていた
T社長の会社は、地域の植物を原料に、調味料などの食品をつくってきました。
長く続けてきた事業ですが、今の商品だけで利益を増やすことには限界を感じていました。そこで、同じ原料を使った化粧品を、新しい収益の柱にできないかと考えていたのです。
打ち合わせでは、これから必要なことを整理していました。
市場を調べる。競合を確認する。買ってくれる人を決める。コンセプトやブランドを考え、販売先を探す。初期投資も見積もる。
やることは、次々に出てきます。
私は、その中でひとつ尋ねました。
「この化粧品を、どんな方に使ってほしいですか」
「自然由来のものが好きな方でしょうか。地元の素材に関心がある方にも、よいと思います」
「その方は、この商品を選ぶことで、何を得られるのでしょう」
そこで、話が止まりました。
化粧品を始める会社側の理由は、はっきりしています。一方で、お客様がこの商品を買う理由は、まだ十分に話せていませんでした。
原料の説明だけでは、選ぶ理由になりにくい
T社長の会社には、語れることがたくさんあります。
土地の自然、長く扱ってきた植物、原料へのこだわり、積み重ねてきたものづくりの経験。
どれも、新しい商品を考えるうえで大切な材料です。
ただ、お客様は、その材料を知っただけでは、自分に必要な商品かどうかを判断できません。
「地元の植物を使っています」と聞いても、自分の暮らしとどう関係するのかが、まだわからないからです。
私は、こう問い直しました。
「その植物を使うことで、お客様の毎日の手入れが、どう変わるとよいのでしょうか」
少し話していくと、違う方向が見えてきました。
たとえば、忙しい毎日の中で、自分をいたわる時間を持ちたい人に届けるのか。
それとも、その土地に愛着があり、旅先で出会ったものを日々の暮らしでも使いたい人に届けるのか。
同じ原料でも、相手が変われば、商品の役割は変わります。
前者なら、日々の使い心地や手入れの時間が大切になります。後者なら、土地を感じられる体験や、持ち帰って使いたくなる形も考えたいところです。
もちろん、どちらもこの時点では仮説です。お客様に望まれているか、商品として実現できるかは、これから確かめる必要があります。
それでも、話は「どんな言葉がよいか」から、「どんな商品なら、その人に喜ばれるか」へ進みました。
コンセプトは、商品を選ぶための考え方にもなる
コンセプトというと、短く印象的な言葉を思い浮かべがちです。
でも、その言葉が役に立つのは、商品づくりの判断にも使えるときです。
誰に届けるのか。その人のどんな願いに応えるのか。自社の材料や経験を、どう生かすのか。
これらが決まると、商品の仕様や価格、売る場所を考える際にも、選ぶ理由ができます。
たとえば「毎日の手入れを、自分をいたわる時間にしたい」という方向なら、使い続けやすい形や価格かどうかが気になります。
「旅で出会った土地を、暮らしの中でも感じてほしい」という方向なら、お土産として選びやすいか、家に帰ってからも使いたくなるかを考えます。
同じ植物を使っていても、つくる商品は同じにならないかもしれません。
コンセプトを決めるとは、これからの商品づくりで何を大切にするかを決めることでもあります。
「うちらしい言葉」から「お客様への約束」へ
T社長は、最初に並べた言葉を見直しました。
「自然の恵み」「地域の素材」「丁寧なものづくり」。
どれも残したい言葉です。ただ、それだけでは、お客様に何を届けるのかまでは伝わりません。
「うちのことは説明しているけれど、お客様が使う場面までは考えられていなかったですね」
そこで、完成したフレーズを選ぶのはいったん置き、次の一文を埋めることにしました。
「私たちは、〇〇を望む人に、△△できる商品を届ける」
きれいな文章にする必要はありません。
「地域の素材を生かした化粧品」より長くなってもかまいません。まずは、誰に何を届けたいかを、社内で同じように理解できることが大切です。
その内容が見えてから、伝わりやすいコンセプトの言葉に整えていきます。
市場調査で、何を確かめるかも変わる
届けたい相手と価値の仮説ができると、市場調査も具体的になります。
その人は今、どんな商品を使っているのか。何に満足し、何が足りないと感じているのか。今回考えた価値を、実際に求めているのか。
競合を見るときも、パッケージや価格の違いだけでなく、同じ願いにどのように応えているかを確かめられます。
調べた結果、最初の仮説を変えることもあるでしょう。
原料の特徴が、思っていた使い方に向かないとわかるかもしれません。お客様が重視していることが、別にあるかもしれません。
そのたびに、商品とコンセプトを一緒に見直します。
最初からひと言に決めきる必要はありません。調べながら、選べるだけの理由をそろえていくのです。
この日の打ち合わせで、決まったこと
この日、化粧品のコンセプトが完成したわけではありません。
決まったのは、次に何を考え、何を確かめるかでした。
まず、届けたいお客様と、その人に届ける価値の候補を整理する。そのうえで、お客様の声と、原料や製造の条件を確かめる。
言葉の候補を増やす前に、商品として目指す方向を具体的にすることにしたのです。
T社長には、化粧品を始めたい理由も、生かせる材料もありました。
そこに、お客様が選ぶ理由を重ねていく。それが、コンセプトづくりの次の作業になりました。

その言葉から、お客様の暮らしが見えますか
コンセプトが決まらないときは、候補の言葉をいったん脇に置いてみてください。
そして、こう書いてみます。
「この商品を使うのは、こんな人です。その人に、こんなよさを届けたいと考えています」
すぐに書けなくても大丈夫です。どこがまだ決まっていないかがわかれば、次に考えることが見えてきます。
お客様に届けたいことが具体的になるほど、それを伝える言葉も選びやすくなります。
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